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Tuesday, January 6, 2009

3日目

 妻との往復書簡というアイデアは、保育園親仲間の高島パパからいただいた。
 悲嘆と恐怖のどん底から毎日少しずつ這い上がれてきているのも、家族・親族、友人たちのおかげで、初期の混乱からかなり立ち直れてきた感じがする。妻の体を葬儀場の保管庫に預けることができ、友人はさびしくないかと言うが、むしろ気がかりをひとつ下ろすことができた。
 保育園でいっしょだったパパママ仲間に、この3日間、どれほど助けられていることか。ようやく、梅酒を飲む気持ちの余裕も出てきて、高島パパと飲みながら、話の成り行きで父親との往復書簡の本を見せた。そのまえがきの中に、「次の相手は妻だが、まだ子育ての真っ最中、もうちょっと後だ」ということを書いた。それも今はできなくなってしまったと言ったが、高島パパの助言で、そうだ、いなくてもできるんだということに気がつくことができた。天国の優子に届ければいいんだ。何を書いても、自分が傷つくことはあっても、現実の優子を傷つけることはない。かの地の優子なら許してくれるだろう。なんという幸せ。そして、時には、優子からのメッセージを、僕が代筆すればよい。
 優子。そういうわけで、勝手に手紙を送らせてもらうよ。
 どうだい、そっちの居心地は?僕は、もうびっくりしたよ。なんで、急にいなくなっちゃうんだ。愚痴を言い出したらきりがない。怒りをぶつけようとしてもきりがない。でも、いいよな。天国にいれば、僕も怒ることができないから。年末に、鮨屋のカウンターでやらかした夫婦けんか、というか口論はすごかったよね。僕も久しぶりにムカついた。店員のねーちゃんたち、ひいてたよね。でも、あれでよかったのだと思う。しかし、さすがに、この手紙では喧嘩はできないなあ。残念だが。
 でもまあ、ふたりのツーショットスキーの最中に逝っちゃうなんで、よくしたもんだ。しかも、痛みも、苦しみもせず、倒れて、即昇天なんて。思いっきり、心肺蘇生したの、わかってた?一度だけ、手を動かしたよね。おっ、息を吹き返すかなと、必死だったよ。でも、ほんの一瞬だった。ずーっと、ずーっと、ディープキスして、唾でべちょべちょだったけど、楽しんでいたわけじゃあないんだ。生きているとき、あれほどの熱烈キッス、やったっけ?あんなに長くはやらなかったよな、いくらなんでも。でも、あれはやっぱりトラウマだったよ。その時は、もう必死というか、必死であることも感じず、周りのスキー客が怖そうに見ているのが視界の隅に入ったけど、そんなことどうでもいい。とにかく、キスしつづけた。でも、怖かったんだと思う。いまから思い返せば。寝ようとして、出てくる情景は、それが多いもん。とても怖かった。脳裏をかすめる優子の死を追い払い、とにかく、吹き続けた。心マッサージのために、救急隊員がはだけた胸が妙にまぶしかったよ。あんなにきれいな胸してたっけ、優子は。
 スキー場の医師も、救急隊員も、駆け付けた麓の病院の方々も、とてもやさしかった。待合室でまってた他の救急患者の家族さんたちまでやさしかったよ。どうぞ、お座りくださいって、声をかけてくださって。落ち着いたら、お礼に行っておくね。
 別に、美化しようとしているわけじゃあないんだ。自然に、こうやってやさしい気持ちで優子に手紙を書けるのも、周りの人が僕にたくさん優しさをくれているからなんだ。たくさんの弔問、たくさんのメール、そして、保育園のパパママたち。毎日たくさん来てくれて、食事から、留守番から、とっても親身になってくれる。甘えて、葬儀の写真コーナーとか、会葬御礼の手紙の印刷までお願いしちゃった。素敵なお葬式ができそうだよ。楽しみだ。たくさん、来てくれるといいな。
 優子との最後のふたりだけの旅行となったソウル。その時の写真を祭壇に置くよ。あれ、とても気に入っているんだ。理知的っていうのかな、とてもきれいだったよ。胸のペンダント、あれは、出張の連続でムカついている優子に、恐る恐る千歳空港で僕が買ってきたやつ。あれを、つけてくれてたのも、僕は、とてもうれしかった。あれ、どこにあるか見つかるかなあ。祐麻が知ってるっていうから、見つけたら、理香ちゃんにあげるね。告別式での弔辞を友人代表として頼んだから。理香ちゃん、快く引き受けてくれて、福岡から飛んできてくれるよ。
 今晩、眠れるか心配だよ。こんなこと初めて。眠れないとかいう優子の横で、いままで僕は、不眠を全く経験したことなかったからね。今回、初めて不眠の辛さを経験できた。精神科医としては必要なことだし。
 じゃあ、おやすみ。「今日は祐麻がいるから大丈夫」だって。祐麻もずいぶんと優しくなったよ。昨日まではさえちゃんちでお泊まりしていたからね。今晩は、うちで、さえとしおりとが一緒にお泊まりだ。

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