Send your message to lettertoyuko@gmail.com


Sunday, January 17, 2010

試験監督と、変容した自己の物語

昨日は朝8時から夜7時までセンター試験の監督でした。いやあ、疲れた!受験生も大変だけど、監督者も大変なんですよ。やることは単純だけど、ミスは絶対許されない。開始時間を1分間違えてもニュースネタになるし、問題を配り間違えて訴訟だって起きるんです。極度の緊張状態。だけど、受験生と異なり、頭の中は空っぽのフリー状態なんです。本を読んだり、原稿を書いたり内職するわけにもいきません。毎年の年中行事だけど、僕がもっとも嫌いなroutine workの一つです。
だけど、今年は違いました。去年まで、試験中フワフワ遊離した思考回路の行く末は、それほど意味を成さないただの雑念だった。でも、昨日は遊離すれば必ず優子の世界にたどり着きます。優子の場所へたどり着き、僕自身の心の中をゆっくり点検できる貴重な時間でした。
そうやってると、ふとアイデアが出てくるんですよね。これ、ブログに使おうとか、西魔女に伝えようとか。ポケットにこっそり忍ばせたポストイットを取り出してメモするんです。それを後で文字に起こしたのがこの記事なわけ。

僕の気持ちを書きとめ、ブログに書いて標本化する。今回ラッキーだったのは友人の友人であるXさんが著した本の草稿が送られてきたこと。Xさんは数年前にパートナーを自死で亡くして書き始めた50冊の日記を編集した心の軌跡の物語。
このブログは僕の物語。似た物語があると、とても助かるんだ。Xさんの物語にシンクロし、僕自身の物語を豊かに発展してゆける。ふたつを比べてどっちが良いとか悪いとか、そういうことではないんです。X物語をTiki物語に引き寄せて、そうか、そっちの方にも展開できるんだ!いろいろなアイデアが浮かぶ。
それに、明後日、河辺貴子さんが授業に来てくれるんだ。9年前、夫をガンで亡くすまでのプロセスを絵日記にしてホスピスの個室のドアに貼り続けたのが注目され本になり、NHKでも放映された。何年か続けて僕の授業に来てもらい、学生たちに家族の死、そしていのちの尊さを語ってもらった。ここ2-3年は休んでいたのだけど、今回また来てもらうことにした。河辺さんの、愛する命を送る物語。それに学生たちからの質問。先週、NHKのビデオを見せ、私のブログを見せて、「河辺さんと私に聞きたいこと」という課題を出したんだ。学生のためもあるけど、僕自身のためなんだよね。
Xさん、河辺さん、そして学生たち。そういうのを全部利用して僕の物語を広げていくんだ。

おたくの心情が何となく理解できるようになった。コスプレ、鉄道、アニメ、何でもいい。そこに没頭することで、自分独自の世界を作ることができる。その中に自己を投影し、自分なりの秩序を作ることができる。
僕の中の優子の世界もおたくと同様だ。僕だけのユニークな世界。僕が構成している。具体的にいえば、優子を失った悲しみの世界。どう僕と子どもたちが悲しみと向き合い(あるいは避け)乗り越えた(乗り越えなかった)のか。そして、21年間、優子と共に築いてきた家族という日常の世界。それがどう生まれ、どう終わったのか。さらに付け加えるなら、優子と一緒になる前の僕自身の世界と優子自身の世界。それら全部が含まれる。
その世界のプレイヤー(選手)は僕と子どもたち。その周りに内野席と外野席から多くの人たちが見守ってくれる。
優子が生きている時、僕の物語は語る必要はなかったし、その存在に気づくことさえ不要だった。第一の登場人物である優子と織りなす日常の物語。恋愛時代は毎晩欠かさなかった1時間ほどの長電話の中で、結婚してからは日常生活の中で、自然にお互いの中に吸収されていった。あえて物語らなくても、優子が僕を見て、僕が優子を見ていた。それで十分だった。

優子が突然亡くなり、僕の世界が一気に変容した。日常が崩れ去り、非日常の世界。そしてそれを一番近くで見ている人を失った。僕の存在を敢えて語り、人に伝えないと消えてしまいそうになった。話し言葉でいろんな人たちに語り、書き言葉で語ってきたのがこのブログだ。変容した僕の世界の地図です。この地図がないと道に迷ってしまう。優子といたときには、地図がなくても迷わなかった。

内野席・外野席の応援団とはまた別に、僕がブログに描く世界地図を手伝ってくれる人たちがいる。たとえば、Xさんと河辺さんは、彼ら自身が経験したパートナー喪失の物語を見せてくれる。東直子さんは、友だちの位置から優子の喪失を著してくれる。彼らが僕の作業にperspectiveを与えてくれ、観客席から見てくれる人たちが地図に価値を与えてくれる。

というようなことを、試験を監督しながら考えていました。受験生くんたちごめんなさい。

No comments:

Post a Comment