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Wednesday, August 26, 2009

クラシック・コンサート


 毎年、お盆を過ぎると草津夏期国際音楽フェスティヴァルが始まる。草津の中心街から離れ、山に向かう森の中に、しゃれたクラシック音楽専用のホールがある。有名観光地の旅館組合から強力な経済支援があるのでしょう、かなり立派だし、毎年、ドイツあたりから(よく知らないけど)一流の音楽家たちがたくさん招かれ、群馬交響楽団のメンバーも加わる。皇后陛下のピアノの先生だった遠山慶子も出演するので、天皇夫妻も時々お忍びでやってくる。
 僕らも、スケジュールさえ合えば、毎年少なくとも1回は見に来ていた。森の自然に囲まれた静かなホール。優子と早めにやってきて、開演前のひと時をホワイエに面した芝生の庭でコーヒーかワインを楽しんだりしていた。お盆が過ぎれば草津はすっかり秋の風になる。
 優子はクラシック・ファンだった。高校では古典ギター部、その後もずっとフルートを習っていた。僕はクラシック・ファンではない。気軽なポピュラーやジャズの方が性に合っている。と言いつつ、子どもの頃はピアノを習ったり、中学・高校ではブラスバンドでトランペットを吹いたり、結構、音楽系だ。若い頃は、よく優子と音楽を楽しんだものだ。結婚した前後にはN響の定期公演のメンバーになったりもしていた。
 特にロンドン時代はよくコンサートに出掛けた。ロイヤル・オペラハウス(コヴェント・ガーデン)、ロイヤル・フェスティヴァルホール、バービカン劇場、ウィグモア・ホール、ロイヤル・アルバート・ホール(夏のプロムナード・コンサート)などなど。日本では、たまに来日したときに、高いお金を出して聴くような演奏が、ごく身近で気軽に聴けた。どんな演目か、誰が演奏したかは小澤征爾が来たことくらいしか覚えていない。僕はもともとクラシック演奏家の名前なんて知りませんので。優子はよく知ってたけど。
 日本に戻ってからはそれほど行く機会も時間もなく音楽鑑賞から遠のいていた頃、草津でも結構良い演目をやってるじゃん!ということで、優子はファンクラブ(友の会)に入った。脱会する手続きを忘れていたので、夏前に優待券が1枚送られていた。どうしよう?あえて一人で行くほどのこともないし、優子を思い出す場所にひとりでなんか行きたくないし....今年の優待券は無駄にして、退会の手続きをしようと思っていた。
 でも、間際になり、ちょっと待てよ。ゼミ合宿で静かな草津にまた来るんだ。昨年は学生たちと鑑賞したけど、そうそう彼女たちに付き合わせるのも悪いし。結局、学生ゼミを早く終え、ひとりでやってきた。
 ひとりでコンサートに来るなんて、高校生の頃以来だ。当時は吉田拓郎、泉谷しげる、Cat Stevensなど、純粋に音楽を楽しむために、ひとりでよくコンサートに行ったものだ。その後のクラシック・コンサートは、考えてみればひとりで行ったことはない。必ず誰かと一緒だったと思う。優子以外の人と行ったこともあったかなあ?昨年の暮れには初めて子どもたちを連れて、第九を聴きに上野まで行ったのが、優子とは最後だったね。
 夏の草津。ひとりのコンサートも悪くなかったよ。メンデルスゾーンの真夏の夜の夢。初めて聴くメロディーだときついので、あらかじめCDをiPodに入れて少し予習をしておいた。なんだ、結婚行進曲じゃん!大編成のオーケストラではなく、10名程度のアンサンブル。迫力ではなく、純粋に音を楽しむという感じ。

純粋な孤独と静謐

優子の面影と重なるフルートの音色の奥に、静謐が聴こえてくる。

結局、友の会は脱会せず、名義を優子から僕に変更した。

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