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Monday, February 28, 2011

職場の送別会

先生方、今日はお忙しい中、このような素敵な会を開いていただきありがとうございます。

結局、19年間いたんですよね。初めて先生方に面接でお会いしたのはまだ英国から帰国した直後でした。赴任後まもなくして生まれた長男が来年は大学受験です。こうやって振り返れば長いような、短いような。
自分自身が父親となり、学校の教師を目指す学生たちに新しい家族の姿を教えるために、私の研究テーマも家族のジェンダーや父性性など、多少シフトしてきました。しかし、この間も週1回クリニックで思春期臨床や、ネットを利用した心の支援活動などに携わり、教育者である以前に精神科医(心の支援者)としてのidentityが優先していました。それに、私、授業で一方的に学生たちに何かを伝えるって、どうも苦手なんですよ。むしろ、相手と直接向き合って話し合っていた方が性に合っています。そういう意味では、個別の卒論・修論指導なんかは楽しむことができました。

実は、かなり前からいつかは教育から臨床に戻りたい、それも定年を待たずに、まだ新しいことに挑戦する体力が残っている50代には切り替えたい、とぼんやり考えていました。でも、今の職場は居心地が良く、自由にさせてもらい、研究の時間もとれます。あえて今の職場を捨てる積極的な理由はありませんでした。
2年前、妻を突然亡くしたおかげで決心できました。もう何も失うものはない。妻も亡くなる数年前から自分が一番やりたかった通訳の道を準備していました。会社を辞め、フリーランスとしてスタートしたばかりでした。身近な死を体験し、自分の残りの人生も身近に考えるようになりました。安定した大学教員のstatusを捨てても、自分が本当にやりたいことを実践するしかありません。

かと言って、駆け出しの医者の頃に戻るわけではありません。当時は「自分が本当にやりたいこと」なんてわかりませんでした。今なら、自分が若い頃に学んできたこと、その後、仕事やプライベートで体験してきたことを振り返り、自分が何を本当にやりたいのか、やっと見えてきたように思います。矛盾だらけの日本の精神科医療に戻るつもりはありません。精神医療全体ではなく、自分が主に関わってきた、ある意味狭い専門分野だけと、自立につまづく若い人たちと、自信をなくしたその家族の苦悩はよくわかるし、何とか力になれるかもしれない。そのためには、短い時間しかとれず、薬漬けの保険診療では実現できません。かといって、3人の子どもたちもいるし、今の生活レベルを落としたくはない。結局、自由診療となり、患者さんの経済的負担は大きくなります。それでも子どもの将来を心配して救いを求める方々はたくさんいるはずです。
そんなに大風呂敷広げちゃって、ホントに治せるのかって?
いや、僕が「治す」わけじゃないですよ。責任を逃れるわけじゃないけど、治っていくのはご本人と家族です。人の人生に、他人がどうこう口出しはできません。そうじゃなくて、彼らが潜在に持っている自らの力を回復して元気になれるプロセスをお手伝いしたい。人の心を変えることはできません。でも、人の心に寄り添い、元気づけることはできます。救いを求めてくる人々の心と、じっくり向き合いたい。

新しい仕事の場所もだいたい決まったんです。必要な方がまわりにいましたら、どうぞご利用ください。というか、先生方ご自身もどうぞ。生徒や学校の先生のメンタルヘルスについては、最近ずいぶん啓発が進みましたが、大学の先生とか会社のお偉いさんなんかのメンタルヘルスは、今のところ全く盲点なんですよ。「優秀な人は心も元気」と普通思いますからね。でも、実際には有能さと心の元気さは関係ないんです。むしろ、指導的な立場の人ほど、他者から支援を受ける機会が得られず困っています。精神科医やカウンセラーなんか一番良い例ですよ。人に支援しているくせに、自分が支援されるニーズは全くと言ってよいほど満たされていません。そんな人たちにもこっそり支援できる体制を整えたいと思っています。
家族や職場の同僚など、身近な人は関われないんですよ。客観性を保つことができませんから。でも、これで先生方とも晴れて「他人」になれますので、どうぞ必要なときは遠慮なく利用してください!

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