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Friday, January 22, 2016

父の終焉日記:1月22日

人生って登山みたいなもんだね。
登山口から、しばらくは樹林帯の中を登っていく。見通しは利かず、どっちに行くのかよくわからないまま、急登をあえぎ進むしかない。子どもたちはまだここなんだよ。
5合目くらいまで登ると樹林帯を抜け、見通しが開けてくる。姪たちはこのあたりだよ。まわりの眺めは見えてくるけど、頂上と思って見上げる頂は実は前山で、前山に着いて、隠されていたホントの頂上がやっと見えてくる。
私はおじちゃん・おばちゃんたちは3000m級のピークが連なる稜線を歩いている。もう最高峰は過ぎ、そろそろ高度を下げる時期に来ている。
ママはピークの稜線から足を滑らして、突然下まで急降下しちゃったよ。
じいちゃんはゆっくり山を降りている。すい臓を取り、退職してから20年。のんびり下降してきて、いよいよ最終段階に来ている。

もうあまり食べなくなってきたんだ。栄養剤ジュースをひと缶飲むくらいだよ。だんだんと、干涸びてくる。水分は取れているけど。
認知もゆっくり落ちてきている。現実世界と夢の世界と、行ったり来たりしながら、だんだん夢の世界に多く入ってきている。

上手に降りるって難しいんだよ。
ママは乱暴に無理矢理急降下しちゃった。
その点、じいちゃんはゆっくり良い降り方をしているよ。
20年前に社会的役割をリタイアして高度を徐々に下げてきて、2週間前から最終着陸体制だ。シートベルトを締めて。
身体の自由も、食欲も、認知も、同時並行でゆっくり降ろして来ている。着陸に際して苦痛も、恐怖も、不安もない。ソフト・ランディングだな。

飛行機も、離陸と着陸が一番むずかしいんだよね。
すごいエネルギーを使って滑走路を走って、地面から離れて飛び立つって怖いし、難しいし。
巡航高度まで上がり、気流に乗れば比較的楽なんだよね。時々乱気流でガタガタいうけど、まあ多分大丈夫。
着陸する空港は決まってないんだよね。ハワイか、サンフランシスコか、ニューヨークまで行っちゃうのか。でも、やがて高度を下げていってゆっくり地上に降りるんだよね。急にタッチダウンすると機体や乗客が傷つくし、ソフトに降りるんだよ。

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